2026年が始まりました。
私は今年を、「生成AIを使って、中小・小規模企業や個人事業主が自社・自身の業務にピンポイントで適したツールを作り、活用し始める」流れの始まりになると予測しています。
「え、そんなこと本当にできるの?」と思われるかもしれません。
そこで、実際にやってみました。
結論から言います。
Stripeの取引データをスプレッドシートに自動取得し、弥生会計のインポート用CSVを出力するツールを、約30分で作れました。
何を作ったのか
私はSaaSを運営しており、決済にStripeを使っています。
毎月の経理処理で、以下の作業が発生していました。
- Stripeのダッシュボードにログイン
- 取引履歴をCSVでダウンロード
- Excelで加工(日付形式の変換、手数料の計算など)
- 弥生会計のインポート形式に整形
- 弥生会計にインポート
月に1回、約30分の作業。
正直に言うと、私はコードを書ける人間です。GUULYというSaaSを自分で開発・運営しているくらいなので、この程度の自動化ツールを作る技術はあります。
でも、作らなかった。
なぜか。「月1回30分の作業のために、わざわざコードを書くのが面倒」だったからです。
Stripe APIのドキュメントを読んで、認証処理を書いて、ページネーション対応して、日付のフォーマット変換して、弥生会計の形式を調べて……。作れば半日から1日はかかる。月30分の作業を効率化するために、半日を投資するか? 割に合わない。だから我慢して、毎月愚直に手作業をしていました。
これ、中小企業の現場でよくある話だと思います。
「やればできるけど、そこまでする価値があるか微妙」な業務改善。大きな課題じゃないから外注するほどでもない。でも自分でやるには手間がかかる。結果、放置される。
今回、生成AIとの30分の対話で、その「放置されてきた小さな非効率」が解消されました。
30分間で何が起きたか──リアルな開発プロセス
「生成AIでツールを作った」と言うと、魔法のように一瞬で完成したように聞こえるかもしれません。実際は違います。エラーと修正の繰り返しでした。
でも、それが面白かった。そして、それでも30分で終わった。その過程を、少し詳しくお伝えします。
最初の一言
私がClaude(Anthropic社の生成AI)に投げた最初の質問はこうでした。
「私は事業者としてStripeを利用していますが、APIを利用して取引データをスプレッドシートに取り込むことはできますか?」
すると、すぐに「できます」という回答とともに、基本的な実装方法の概要が返ってきました。
用途を伝えると、設計が変わる
次に「月次の売上集計、手数料の会計処理がメインだが、ゆくゆくは顧客分析にも繋げたい」と伝えました。
するとClaudeは用途に応じたデータ構造を提案してくれました。「残高取引シート」と「決済明細シート」の2つに分け、会計処理と将来の顧客分析の両方に対応できる設計です。
そして、完成版のGoogle Apps Scriptコードがドンと出てきました。約300行。自分で書いたら数時間はかかる量です。とりあえず動かしてみることにしました。
最初のエラー:APIキーの種類
コードをコピペして実行。すぐにエラーが出ました。
「This API call cannot be made with a publishable API key. Please use a secret API key.」
Claudeに聞くと、「Stripeには2種類のAPIキーがあり、`pk_live_`で始まる公開キーではなく、`sk_live_`で始まるシークレットキーを使ってください」と即答。なるほど、そういうことか。
キーを差し替えて再実行。データが取れた。
2つ目のエラー:金額がおかしい
スプレッドシートにデータが並んだ。でも、何かおかしい。金額が「28」「17」になっている。本来は2,750円、1,650円のはずなのに。
スクリーンショットを貼ってClaudeに見せると、すぐに原因を特定してくれました。
「Stripeの仕様で、USD・EURなどはセント単位で返却されるため100で割る必要がありますが、JPY(日本円)は円単位でそのまま返却されます。現在のコードは一律で100で割っているため、日本円の場合に金額が100分の1になってしまっています」
これ、自分で調べたら30分はかかる類のハマりポイントです。修正コードをもらい、貼り付けて再実行。金額が正しく表示された。
3つ目のハードル:弥生会計の形式
次は、このデータを弥生会計に取り込めるようにしたい。私は過去に作成した弥生会計のインポート用CSVファイルをアップロードして、「この形式に変換してほしい」と依頼しました。
Claudeはファイルを解析し、カラム構成を把握した上で、変換用のコードを生成。勘定科目も私が指定した通り(売上高→システム開発・運営等、支払手数料→Stripe手数料、売掛金→Stripe)に設定してくれました。
4つ目のエラー:ファイルが空
「弥生会計CSV出力」を実行。Googleドライブにファイルが保存された、というメッセージが表示された。ファイルを開いてみると……中身が空。
状況を伝えると、「CSV生成部分のロジックに問題がありました」と修正コードが返ってきた。
5つ目のエラー:構文エラー
修正コードを貼り付けて保存しようとすると、今度は構文エラー。
「SyntaxError: Identifier ‘csvContent’ has already been declared」
これもClaudeに伝えると、「同じ変数が2回宣言されています。古い方を削除してください」と具体的な指示。その通りにしたら、無事に動いた。
完成
ここまでで約30分。最終的に、以下の機能を持つツールが完成しました。
- Stripe APIから取引データを自動取得(売上・手数料・返金など)
- Googleスプレッドシートに自動反映
- 月次サマリーの自動生成
- 弥生会計インポート用CSVの出力(Shift-JIS対応)
スプレッドシートのメニューから「データ取得」をクリックするだけで、すべてが完了します。
今回は、機能を追加していませんが、トリガによる自動実行で毎月の月次作業の日には既に前月分のインポートファイルが準備された状態にすることも可能です。
会計ソフトによってはAPIで仕訳の入力まで直接できるものもあるでしょう。
なぜ今、これが可能になったのか
1. 生成AIの「対話型デバッグ能力」が実用レベルに達した
重要なのは、「一発で、ほぼ完璧なコードが出てくる」ことではありません。エラーが出たときに、状況を伝えれば修正してくれること。これが実用レベルになったのが大きい。
エラーメッセージを貼り付ける。スクリーンショットを見せる。「こうなってほしいのに、こうなっている」と伝える。その対話の中で、AIが自分で問題を特定し、修正案を出してくれる。
2. 「試行錯誤のコスト」が劇的に下がった
従来の開発では、エラーが出るたびにドキュメントを読み、Stack Overflowを検索し、試行錯誤する必要がありました。1つのエラーを解決するのに数時間かかることも珍しくなかった。
今は、エラーメッセージをそのまま貼り付ければ、数秒で原因と対策が返ってくる。試行錯誤の1サイクルが、数時間から数十秒に短縮されたのです。
3. 「作るかどうか」の損益分岐点が変わった
これが一番重要かもしれません。
従来、ツールを自作するかどうかの判断基準はこうでした:
「作る時間 vs 節約できる時間」
半日かけて作るツールで、月30分の作業が削減できる。回収に1年かかる。その間に業務フローが変わるかもしれない。仕様変更があるかもしれない。だったら作らない方がいい。
生成AIを使うと、この計算が変わります。
30分で作れるなら、月30分の作業を1回削減するだけで元が取れる。
つまり、今まで「割に合わない」と諦めていた小さな業務改善が、全部「やる価値あり」に変わるのです。
私のような「コードは書けるけど、小さな業務のために時間を使うのはもったいない、他にやることがある」と思っていた人間にとって、これは革命的な変化です。そして、コードを書けない人にとっては、「そもそも不可能だったことが可能になった」という、さらに大きな変化です。
これは「バイブコーディング」なのか?
2025年、「バイブコーディング(Vibe Coding)」という言葉が話題になりました。AIに自然言語で指示を出し、コードを生成させる開発スタイルのことです。
SNSやYouTubeでは、こんな話が飛び交っています。
「プロンプト一発でアプリが完成!」
「プログラミング不要の時代が来た!」
「丸投げで全部作れる!」
正直に言います。それは、半分本当で、半分嘘です。
「丸投げ」で作れるものと、作れないもの
確かに、生成AIは驚くほど高度なコードを出力できます。「ToDoアプリを作って」と言えば、それなりに動くものが出てくる。デモ動画を見ると、魔法のように見える。
でも、実際にやってみると分かります。
「丸投げ」で作れるのは、AIが学習データとして大量に見てきた「よくあるアプリ」だけです。
ToDoアプリ、チャットアプリ、ブログ、ECサイト……。世の中に無数のサンプルがあり、AIが「こういうものでしょ」と推測できるもの。これらは確かに、かなりの精度で出力されます。
一方、今回私が作ったような「Stripeのデータを弥生会計の形式に変換する」ツールはどうか。
これは**「私の業務」に特化したツール**です。世の中にサンプルがほとんどない。AIに「丸投げ」しても、私が何をしたいのか、弥生会計の形式がどうなっているのか、勘定科目をどう設定したいのか、分かるはずがない。
私がやったのは「丸投げ」ではなく「対話」
今回、私がやったのは「丸投げ」ではありません。
- 「月次の売上集計と会計処理に使いたい」と目的を伝えた
- 金額がおかしいとき、スクリーンショットを見せて状況を伝えた
- 弥生会計のインポート形式を、実際のファイルを渡して教えた
- 勘定科目を具体的に指定した
つまり、「一緒に作った」のです。
AIは優秀なアシスタントですが、私の業務を知りません。私の会計ソフトの形式も知りません。それを教えながら、対話しながら、一緒に作っていく。これが、現時点での生成AI活用の現実的な姿だと思います。
「丸投げ」を期待すると挫折する
SNSで「丸投げで作れる!」という投稿を見て、試してみて、うまくいかなくて、「なんだ、使えないじゃん」と諦める人が多いのではないかと思います。
違うんです。使い方が違う。
生成AIは「魔法の杖」ではなく、「超優秀なアシスタント」です。
丸投げして完璧なものが出てくることを期待するのではなく、対話しながら一緒に作っていく。エラーが出たら伝える。期待と違ったら説明する。その繰り返しで、自分専用のツールができあがる。
まずは「小さな業務改善」から
だから、最初から大きなアプリを作ろうとしないでください。
まずは「小さな業務改善」から始める。
- 毎月やっているCSV加工を自動化する
- 複数のシートからデータを集計するスクリプトを作る
- 定型メールを自動送信する仕組みを作る
こうした「自分の業務」に特化した小さなツールは、丸投げでは作れません。でも、対話しながらなら作れます。そして、この「対話しながら作る」経験を積むことで、徐々に大きなものも作れるようになっていく。
巷で言われる「プロンプト一発で完成!」を真に受けず、地に足のついた第一歩から始めてほしい。それが、私から伝えたいことです。
中小企業・個人事業主にとっての意味
「汎用ツール」から「専用ツール」へ
これまで中小企業のIT活用は、「汎用的なSaaSをそのまま使う」が基本でした。会計ソフト、顧客管理、在庫管理……。パッケージとして提供されているものを、自社の業務に合わせて使う。足りない部分はExcelで補う。
でも、本当に欲しいのは「自社の業務にぴったり合ったツール」です。
今回作ったStripe連携ツールは、まさにそれです。
- 私の会社の決済手段(Stripe)に対応
- 私の会計ソフト(弥生会計)の形式で出力
- 私が必要とする勘定科目を設定済み
汎用ツールでは絶対に実現できない、「私専用」のツールです。
「外注」から「自作」へ
従来、こうしたツールを作ろうとすると、開発会社に外注するしかありませんでした。見積もりを取って、仕様を詰めて、開発してもらって、テストして……。数十万円、下手したら百万円以上かかることもある。
生成AIを使えば、自分で作れます。外注コストはゼロ。必要なのは、月額数千円のAIサービス利用料と、対話に使う時間だけです。
こんな人に向いている
この方法は万人向けではありません。以下のような方に向いています。
向いている人:
- 自分で手を動かすことに抵抗がない経営者・個人事業主
- プログラミングができるが「小さな業務のためにコードを書くのは面倒」と思っている人
- 「毎月やっているあの作業、なんとかしたい」という具体的な課題がある
- SaaSを複数使っていて、「データを繋げたい」「連携させたい」と思っている
- エラーが出ても「よし、次」と思える人
向いていない人:
- 「AIが全部やってくれるんでしょ」と丸投げしたい人
- 具体的な課題がなく、「なんとなく効率化したい」という人
- エラーが出ると心が折れる人
注意点
1. 「何をしたいか」を言語化する力は必要
生成AIは「察して」はくれません。「いい感じにして」では動きません。「Stripeの取引データを取得して、弥生会計のインポート形式に変換したい」という具体的な要求を、言葉で伝える必要があります。
2. セキュリティへの配慮
今回のツールでは、StripeのAPIキーを扱っています。これは「お金を動かせる鍵」です。スクリプトに直接書かず、スクリプトプロパティに保存するなど、最低限のセキュリティ対策は必要です。生成AIはそうした配慮も含めてコードを出力してくれますが、「なぜそうするのか」を理解しておくことは重要です。
3. 完璧を求めない
今回作ったツールも、完璧ではありません。エッジケースへの対応が甘い部分もあるでしょう。でも、「80点のツールを30分で作る」のと「100点のツールを外注して3ヶ月待つ」のと、どちらが事業にとって価値があるか。私は前者だと思っています。足りない部分は、使いながら育てていけばいい。
始め方:最初の一歩
興味を持ったら、以下のステップで始めてみてください。
Step 1:課題を特定する
「毎月やっている作業」「毎回手作業でやっていること」を1つ選ぶ。
例えば:
- 毎月のCSV加工作業
- 複数のサービスからデータを集めてExcelにまとめる作業
- 定型メールの送信
- 請求書の作成
ポイントは、「我慢してやっている小さな作業」を選ぶこと。大きすぎる課題より、小さな課題の方が成功しやすい。
Step 2:生成AIに聞いてみる
まずはClaudeでも、ChatGPT でも、Geminiでも生成AIに聞いてみましょう。
「〇〇という作業を自動化したいのですが、どのような方法がありますか?」
Step 3:やってみる
提案された方法を試す。エラーが出たら、そのまま貼り付けて聞く。動くまで繰り返す。
最初は1時間かかるかもしれません。でも、2つ目、3つ目と作っていくうちに、「AIとの対話の仕方」が分かってきます。そして、1つ成功すると「次はあれも自動化できるんじゃないか」と思えるようになる。
まとめ:専門家として、言いたいこと
私は中小企業診断士・ITコーディネータとして、これまでクライアントに「まずは汎用ツールを使いましょう」「いきなりカスタマイズは難しいですよ」と言ってきました。それが現実的なアドバイスだったからです。
でも、2026年からは、こう言おうと思います。
「あなた専用のツール、一緒に作りませんか」
あなたにぴったりな汎用プラットフォームが奇跡的に中小企業に降りてくるのを待つ必要はありません。今すぐ、自分の手で、自分専用のツールを作れる時代が来ています。
「丸投げで全部作れる」は、現段階では幻想です。でも、「対話しながら一緒に作る」は現実です。
私はこれを、「自作ツール元年」と呼びたいと思います。
今回作成したツールの概要
- 開発時間:約25分
- 使用ツール:Claude、Google Apps Script、Stripe API
- 機能:Stripe取引データ取得、スプレッドシート連携、弥生会計CSV出力
- 発生したエラー:5回
- 諦めた回数:0回
セミナーやります(近日告知予定)
「自分でもやってみたいけど、最初の一歩が分からない」という方向けに、ハンズオン形式のセミナーを企画中です。詳細が決まり次第、noteで告知します。
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