中小企業診断士・ITコーディネータの大澤真介です。
正直に言うと、AIモデルの性能比較を追いかけるのは、もうやめました。
2月20日、GoogleがGemini 3.1 Proを発表しました。ベンチマークテストでは多くの項目でトップスコアを記録。それに対して、AnthropicのClaude Opus 4.6は「実際の業務タスクでは依然として最高評価」と反論。OpenAIのGPT-5.2も黙っていません。
SNSのタイムラインには「Geminiが最強」「いやClaudeの方が上」「結局ChatGPTが安定」という論争が溢れかえっています。
で、中小企業の経営者として、この論争を見て思うわけです。
「で、結局どれを使えばいいの?」
中小企業診断士・ITコーディネータとしてクライアント企業のIT活用を支援している中でも、この質問を本当によくいただきます。今回は、その問いに対する私なりの答えをお伝えします。
AIモデル、今何が起きているか
まず、状況を簡単に整理します。
2026年2月現在、主要な生成AIは「三強時代」に突入しています。Google(Gemini)、Anthropic(Claude)、OpenAI(ChatGPT)。この3社が、数週間おきに新モデルをリリースし、ベンチマークの数字で「うちが一番」とやり合っている状態です。
Gemini 3.1 Proは推論テストで高スコアを出しましたが、実務的なタスク評価ではClaude Opus 4.6の方が高い。一方で、コーディング特化のモデルは特定領域で両者を上回る。つまり、「すべてにおいて最強」というモデルは、存在しません。
しかも、この順位は数週間で入れ替わります。先月トップだったモデルが、今月は2位に落ちている。来月にはまた別のモデルが出てくる。
この状況を見て、私は思いました。
「最強を追いかけること自体が、中小企業にとっては時間の無駄なんじゃないか」と。
変わったのは「モデルの賢さ」だけじゃない
ここで、少し視点を変えます。
2024年7月、私は「乱立する対話型生成AI、それぞれの特徴を生成AIに聞いてみた」という記事を書きました。ChatGPT、Claude、Gemini、Copilot、Perplexityの5つを並べて、それぞれの特徴を紹介した記事です。
あの時と今で、何が変わったか。
もちろん、モデルの性能は劇的に上がりました。でも、それ以上に大きいのは**「AIにできること」の範囲が一気に広がった**ことです。
あの頃は、生成AIと言えば「テキストの読み書き」が中心でした。チャット画面で質問して、テキストで答えが返ってくる。それがメインの使い方でした。
今は違います。いくつか具体的に紹介させてください。
AIがパソコンを操作する時代 ── Claude Cowork
今年1月、AnthropicがリリースしたClaude Coworkは、私にとって衝撃でした。
これは簡単に言うと、AIがパソコンのデスクトップ上で「手足」を持ったようなものです。ファイルの整理、データの抽出、書類の分析──これまで人間がマウスとキーボードで行っていた作業を、AIが自律的にやってくれます。
たとえば、「ダウンロードフォルダの中身を種類別に整理して」と指示すれば、数百件のファイルをスキャンして、画像・文書・スプレッドシートなどに自動分類してくれる。領収書のフォルダを渡して「経費精算書を作って」と頼めば、各領収書を読み取って日付・金額・カテゴリを抽出し、スプレッドシートにまとめてくれる。
1月末にはさらに業務特化のプラグインが11種類追加されて、法務・営業・財務・マーケティングなど幅広い専門業務にも対応するようになりました。また、特定の業務手順をAIに覚えさせる「Skills」という仕組みも広がっていて、自社独自のワークフローをAIに教え込むことも可能になりつつあります。以前の記事「Claude『Skills(Agent Skills)』の使いどころを見極める」で詳しく書きましたが、一度うまくいったやり方をパッケージ化して、AIが自動的に適用してくれる仕組みです。
このSkillsがSaaS版のClaude(claude.ai)でもCoworkでも同じように使えるのは、大きなポイントです。
この一連の発表がきっかけで世界中のSaaS企業の株価が大幅に下落する「Anthropic Shock」が起きたのは、ニュースで見た方もいるかもしれません。
そして2月10日にはWindows版もリリースされ、macOSと完全に同じ機能が使えるようになりました。月額20ドル(約3,000円)のProプランから利用可能です。まだ研究プレビューの段階ではありますが、「AIが画面の中で指示を出すだけ」の存在から、「AIが実際にパソコンを動かす」存在に変わりつつあることは、間違いありません。
資料作成の常識が変わる ── NotebookLMの進化
Google側で私が注目しているのは、NotebookLMの進化です。
NotebookLMは、PDFやWebページ、YouTube動画などを読み込ませると、その内容を理解して要約したり、ポッドキャスト風の音声解説を生成したり、スライド作成をしてくれるツールです。初期段階では、「嘘をつきにくい」が注目されたツールでしたが、その特徴を活かした上で最近の進化がすごい。
2025年11月、Googleの画像生成AI「Nano Banana Pro」の技術が統合されたことで、読み込ませた資料からスライドやインフォグラフィックを自動生成できるようになりました。
たとえば、補助金の公募要領のPDFをNotebookLMに読み込ませて「概要をスライドにして」と指示すれば、要点を整理した視覚的にわかりやすいプレゼン資料が数分で出来上がります。セミナーの叩き台にもなる。
しかも、つい数日前(2月17日)のアップデートで、さらに2つの大きな改善がありました。
1つ目は、生成したスライドをプロンプトで対話的に修正できるようになったこと。これまでは気に入らなければ全部やり直すしかなかったのが、「3枚目のグラフを棒グラフに変えて」「結論のスライドをもっとシンプルに」といった部分修正が可能になりました。
2つ目は、PPTX形式(PowerPoint形式)での書き出しに対応したこと。これまではPDF出力のみで「きれいだけど編集できない」のが課題でしたが、パワポで開いて自社テンプレートに合わせて仕上げる、という実務的なワークフローが成立するようになりました。Googleスライド形式への対応も近日中に予定されているそうです。
現時点ではスライド内のテキストが画像として扱われる部分もあり、文字の微修正には工夫が必要です。
しかし、『0から1を作る苦労を3分で終わらせ、人間は最後の2割の仕上げに集中する』という役割分担であれば、今すぐ実戦投入できる強力な武器になります。
つまり「どのAIが賢いか」より「AIで何ができるようになったか」
ここまで紹介した2つの事例──Claude CoworkとNotebookLM──に共通しているのは、どちらも「モデルの賢さ」だけの話ではないということです。
Claude Coworkは、モデルがどれだけ賢いかよりも「パソコンを操作できる」というインターフェースの変化が本質です。
NotebookLMも、テキスト生成の精度が上がったことより「PDFからスライドを自動で作れる」「それをパワポで出力できる」という機能の広がりが重要です。
今日の結論です。
中小企業が今注目すべきは、「どのAIモデルが一番賢いか」ではなく、「AIを使って何ができるようになったか」です。
ベンチマークの数字が0.5ポイント上がったかどうかは、正直、日常業務にはほとんど影響しません。
でも、「資料のPDFを読み込ませたら3分でスライドになる」とか「フォルダの中身を自動で整理してくれる」といった機能の変化は、明日からの業務を変えてくれます。
中小企業の経営者に必要なのは「問いかけ」の習慣
ただ、ここで正直に言うと、Coworkの最新機能だとか、NotebookLMのアップデート内容だとか、そういう細かい話を逐一追いかけるのは大変です。忙しい中小企業の経営者にとって、AIの進化を毎週チェックするなんて、現実的じゃない。
じゃあどうすればいいのか。
私は、たった一つの習慣だけ持っていればいいと思っています。
「うちの会社の、この業務をAIを使って、もっと品質良く、効率良くできないかな?」
毎月の経費精算の時。請求書を手作業で入力している時。補助金の資料をイチから作っている時。セミナー用のスライドをパワポで何時間もかけて作っている時。
その瞬間に、ふと立ち止まって「これ、今のAIでどうにかならないかな?」と問いかけてみること。
これだけでいいんです。
CoworkやNotebookLMの名前を覚えている必要はありません。
でも、「AIがパソコンの中のファイルを自動で整理してくれるらしい」とか「PDFを読み込ませたらスライドを作ってくれるらしい」という、ぼんやりとした地図は持っておいてほしい。
なぜなら、その地図があるかないかで「問いかけ」の精度が変わるからです。
「AIって文章を書くやつでしょ?」で止まっている人は、経費精算やファイル整理の場面で「AIでできないかな」とは思いません。
でも「AIがパソコンの作業を自動でやってくれるらしい」と知っている人は、「じゃあこれもできるんじゃないか」と発想が広がる。
以前、GASの記事で「バイブコーディング時代でも最低限の知識は必要」とお伝えしました。同じことです。「詳しくなる」必要はないけれど、「今のAIでこのくらいのことができるようになっている」という大まかな感覚は持っておく。
そこから先の具体的な手段や使い方は、実は普段お使いのChatGPTやGeminiに「うちの会社でこういう業務があるんだけど、AIで効率化できない?」と聞いてみるだけでも、かなりのヒントが返ってきます。
AIに相談するハードルは、もう驚くほど低くなっています。
それでも「具体的にどう進めればいいかわからない」「自社に合った方法を一緒に考えてほしい」という時は、専門家に相談すればいい。
「何ができるか」を引き出す伴走者でありたい
そして、ここからは私自身の話です。
中小企業診断士・ITコーディネータとして、私がやりたいのはまさにこの部分です。
AIの最新動向を追いかけて、「今のAIでこんなことができるようになった」という情報をアップデートし続けること。そして、クライアント企業の経営者が「うちの業務、これAIでできない?」と問いかけてくれた時に、「できますよ。こういう方法で」と具体的に答えられること。
経営者がすべてのAIツールに詳しくなる必要はありません。でも、「何かできそうだ」と気づける程度の知識は持っていてほしい。
そして、その気づきを、具体的な業務改善につなげる手伝いを、我々のような専門家がする。
これが、AI戦国時代における中小企業支援のあるべき姿だと、私は考えています。
まとめ
AI戦国時代、中小企業に必要なのは「最強のAIを選ぶ」ことでも、最新のアップデートを毎週追いかけることでもありません。
大事なのは、たった一つの問いかけです。
「うちの会社の、この業務AIを使ってできないかな?」
その問いかけができるだけの「大まかな地図」──今のAIでどんなことができるのかという感覚──さえ持っていれば、それで十分です。
具体的なツールの選定や使い方は、信頼できる専門家と一緒に考えればいい。
今回紹介したClaude CoworkやNotebookLMの進化は、「AIがテキストを書くだけの存在ではなくなった」ことを示しています。
パソコンの作業を自動でやってくれる。PDFからスライドを作ってくれる。この「できること」の広がりを、ぼんやりとでも知っておくこと。
それが、AI戦国時代を乗り越えるための、最もシンプルで最も効果的な戦略だと思います。
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