中小企業診断士・ITコーディネータの大澤真介です。 合同会社オンザウェイの代表をしています。 ITと経営の二刀流で、中小企業のDX推進をお手伝いしています。
Googleフォームは、中小企業にとって最も身近で実用的なノーコードツールです。 しかも生成AIと組み合わせれば、『ノーコードツール』の多くのユースケースをカバーできてしまいます。
今日はこの話をします。
ノーコードツールが大好きな理由
その前に、少しだけ自分の話をさせてください。
私は資金繰り管理SaaS「GUULY」を自分で開発・運営しています。リユース業界で20年働く中で、自分が在籍していた会社を含めて資金繰りに苦労する中小企業をたくさん見てきました。
そんな頃、支払いや入金の管理、資金繰り表を作れるツールがないかと思い、ネットで探し回ったものの見つからず。
「無いなら自分で作ろう、これを解決するツールを自分で作りたい」と思ったのがきっかけでした。
ただ当時の私にはプログラミングの知識がありませんでした。
ノーコードツールも、存在していたかもしれませんが、少なくとも私の選択肢には入っていませんでした。
だから、プログラミングをイチから学んで、自分で作るという道を選んだんです。平日の夜と土日を使って約1年半。2018年12月にようやくリリースしました。
今振り返ると、もしあの時点で今のようなノーコードツールや生成AIがあったら、プログラミングを学習しようとせずに、ノーコードで作ろうとしていたかもしれません。
プログラミングをイチから学ぶのにかかった時間と労力を知っているからこそ、「コードを書かずに業務の仕組みを作れる」ことの価値が身に沁みてわかる。だから私はノーコードツールが大好きなんです。
『ノーコードツール』の前に、まだ「紙」が活躍している現実
『ノーコードツール』といえば、kintoneやサスケWORKS、JustDB、Google AppSheetなどが有名です。プログラミングなしで業務アプリを作れるツールの総称で、データの入力画面も、蓄積も、集計・可視化も、ひとつのプラットフォーム上で実現できます。どれも素晴らしいツールで、私も中小企業への導入を支援しています。
ただ、中小企業診断士兼ITコーディネータとして現場に積極的に訪問させていただく中で痛感するのは、まだまだ「紙」が活躍しているということです。
日報が手書き、クレーム対応の記録がノート、棚卸しが紙のチェックシート。
『ノーコードツール』を使えばこうした業務もデジタル化できます。でも実際には、そこにたどり着く前で止まっている企業が多い。 「ノーコードツールって色々あるけど、うちにはどれが合うの?」「導入しても自社で使いこなせるの?」、こういった疑問が解消されないまま、検討が止まってしまう。月額コストの稟議が通らないケースもあります。その前段階でノーコードツールという選択肢を知らないケースもあります。
その結果、業務システムの話以前に、そもそもデータの入り口がないまま現場が回っている。
業務システムは「インプット(入力)→ データベース(蓄積)→ アウトプット(出力・活用)」の3層で構成されています。このうち中小企業がDXでいちばん躓くのが「インプット」です。どんなに優れたデータベースを用意しても、データが入ってこなければ何も始まりません。
入力画面を作ろうとすると、これがハードルが高い。業務アプリを開発するにはコストがかかるし、Excelの共有ファイルに直接入力してもらう運用はすぐに破綻する。紙に書いてもらって誰かが転記する、なんて話はいまだにあちこちで起きています。
ここでGoogleフォームの出番です。
Googleフォームは「アンケートツール」ではなくノーコードツールである
Googleフォームの本質は、「誰でも数分で作れるデータ入力画面」です。
テキスト入力、数値入力、日付選択、プルダウン、ラジオボタン、チェックボックス、ファイルアップロード。業務入力に必要な要素をほぼすべてカバーしています。条件分岐(セクション機能)もあるので、「Aを選んだ人にはこの質問を表示、Bを選んだ人にはスキップ」という動的なフォームも作れます。
回答できるユーザーをアカウント・グループ単位で制限することもできるので、「この部署のメンバーだけ入力可能にしたい」という社内業務の要件にも対応できます。回答後の編集も、設定で「回答の編集を許可」をオンにすれば、回答者が送信済みデータを後から修正できます。
さらに最近では、フォーム作成画面にGeminiが統合され始めています(2026年2月時点でプレビュー版)。
「数量と受け取り日に関する質問を含む、パン屋の注文フォーム」と自然言語で指示するだけでフォームが生成される。Google自身がフォームを「アンケートツール」の枠を超えた存在として進化させようとしていることの表れだと思います。
これだけの機能が揃っていて、無料。Googleアカウントさえあればブラウザで「forms.new」と打つだけで新規作成画面が開く。これをノーコードツールと呼ばずに何と呼ぶのか、という話です。
Googleフォーム+スプレッドシート=簡易業務システム
Googleフォームの回答はボタン一つでGoogleスプレッドシートに自動連携できます。これが何を意味するかというと、フォームがUI(入力画面)、スプレッドシートがDB(データベース)として機能するということです。
さらにスプレッドシートには関数やピボットテーブル、条件付き書式などの機能がありますし、Googleが提供しているダッシュボード作成ツール「Looker Studio」と接続すれば、リアルタイムのグラフや集計表も作れます。
「入力 → 蓄積 → 可視化」の一気通貫が、Googleの無料ツールだけで完成します。よく考えると、これは簡易業務システムそのものです。
具体的な活用シーン
中小企業の業務でGoogleフォームを「インプットUI」として使える場面は、想像以上に多いです。
日報・業務報告。 スマホからサッと入力できるので、営業担当者が移動中に報告できます。帰社してPCに向かって日報を書くストレスから解放される。管理者側はスプレッドシートで一覧確認できるので、報告の抜け漏れも一目瞭然です。
クレーム・トラブル記録。 「いつ・誰から・何について・どう対応したか」をフォームに入力するだけで、クレームデータベースが自動的に出来上がります。紙の報告書は棚の奥にしまわれて二度と見返されませんが、デジタルデータになっていれば「この3ヶ月で多かったクレームの種類は?」と集計できます。
在庫の棚卸し・検品。 棚卸しで紙にチェックを入れて後からExcelに打ち直す、あの二重入力をフォームで一発に置き換えられます。
社内申請。 備品購入申請、有給休暇申請、経費精算の一次入力。紙の申請書をなくすだけで、承認者への連絡、保管、検索の手間が一気に減ります。
生成AIがGASを書いてくれる時代
ここからさらに面白い話をします。
「Googleフォームは確かに便利だけど、もっと凝ったことをしたくなったらどうするの?」
その答えが、Google Apps Script(GAS)です。GASはGoogleのサービスを自動化・拡張するためのスクリプト言語ですが、「プログラミングでしょ? うちにはそんな人材いないよ」と思った方、安心してください。今は生成AIがGASを書いてくれます。
試しに、ChatGPTに「営業の業務日報を入力するGoogleフォームをGASで作って。項目は日付、訪問先、商談ステージ、商談メモ、次回アクション。商談ステージはプルダウンで『初回訪問・提案中・見積提出・クロージング・失注』から選べるようにして」と伝えてみました。
もちろん、GeminiでもClaudeでもOKです。
出力されたGASコードをスプレッドシートのスクリプトエディタに貼り付けて実行すると、こうなります。もちろん見慣れたGoogleフォームの画面です。
もちろん、スマホでアクセスすれば最適化された画面になります。
forms.newから画面をポチポチ操作して作るよりも、やりたいことを日本語で伝えてGASで生成してもらう方が早い場合すらあります。「項目を増やしたい」「選択肢を変えたい」といった修正も、AIに追加の指示を出すだけです。
私自身、GUULYを作った時にプログラミングをイチから学ぶのに1年半かかりました。でも今は、その苦労の大部分を生成AIが肩代わりしてくれる。これは「ノーコード」のさらに先にある体験です。コードは存在するけど、人間が書くわけじゃない。
GASでさらに広がる「マスタ連携」
生成AIがGASを書いてくれることがわかると、次はこんなことも可能になります。
スプレッドシートに用意した「マスタデータ」を、フォームのプルダウン選択肢に自動反映する。
たとえば、スプレッドシートに顧客名のマスタを持っておいて、GASでフォームの「訪問先」プルダウンに反映させる。顧客が増えたらスプレッドシートのマスタに追加するだけで、フォームの選択肢も自動更新される。手入力による入力ミスの防止にもなりますし、「フォーム+スプシ=簡易業務システム」がより実用的になります。
※画像では省略しましたが、この後にコードも出力してくれています。
商品マスタ、担当者マスタ、拠点マスタ。業務で使う選択肢をスプレッドシートで一元管理して、フォームに動的に反映する。これ、『ノーコードツール』でやっていることとほぼ同じです。
そしてこのGASも、生成AIに「スプレッドシートのA列にある顧客名リストを、フォームの『顧客名』プルダウンに反映するGASを書いて」と伝えるだけで出来上がります。
『ノーコードツール』を導入する前に、考えてみてほしいこと
正直に言います。
私はこれまで、中小企業のDX支援の中で『ノーコードツール』をたくさん提案してきました。「業務システムをベンダーに発注するほどの規模じゃない」「あったら便利だけど、ぴったりのSaaSが見つからない」。そんな時に、『ノーコードツール』は本当に頼りになる選択肢です。今後もそういう場面では提案し続けるでしょう。
一方で最近、「生成AIでコードを書いてアプリを作っちゃおう」、いわゆるバイブコーディングという流れが急速に進化しています。
これはこれで面白いし、素晴らしい。ぜひとも活用していきたい動きですが、IT活用がまだ進んでいない企業の業務ツールを作るのに使うと考えると、少し違和感があります。
不具合があったときに誰がメンテナンスするのか。動かなくなった時に誰が直すのか。属人化のリスクは、むしろ従来の開発と同じです。
また、意外と見落とされがちなのが、スマホで使える、使いやすいUIになっているかという問題。現場のスタッフが使う業務ツールは、スマホやタブレットからサッと入力できなければ定着しません。Googleフォームはその点、最初からスマホ対応済みです。
従来のノーコードツールも良い、バイブコーディングも素晴らしい。
でも私が伝えたいのは、その手前にもう一段、検討すべきステップがあるんじゃないの?ということです。
Googleフォーム+スプレッドシート+GAS+生成AIの組み合わせを整理すると、
- 入力UI → Googleフォーム(条件分岐、ファイル添付、公開範囲制御あり、レスポンシブデザインに完全対応)
- マスタ連携 → GASでスプシから選択肢を動的反映
- データ蓄積 → スプレッドシートに自動連携
- 可視化 → Looker Studioやピボットテーブル
- 回答の修正 → 設定で回答者による編集が可能
- カスタマイズ → GAS(生成AIが書いてくれる)
- コスト → 無料(Google Workspace有料版でも月数百円/人)
不具合があった時はAIに相談できるのはもちろん、自分でフォームの編集画面から修正することも可能。蓄積データを確認したければスプレッドシートを開いて直接見れば良い。
中小企業の多くのユースケースでは、これで十分まかなえてしまうのではないか。
私が言いたいのは「『ノーコードツール』は不要だ」ということではありません。ノーコードの定義をもっと広く捉えましょう、ということです。Googleフォーム周辺のエコシステムも、立派なノーコード的アプローチです。まずはGoogleフォームで始めてみて、足りなくなったタイミングで『ノーコード
ツール』にステップアップする。
または、バイブコーディングに挑戦する。
この順番でいいと思うんです。
Googleフォームでカバーできないライン
Googleフォーム周辺でカバーできない領域は明確にあります。ここを知っておくことが大事です。
データの自在なCRUD操作。 フォームは「新規入力(Create)」に特化しています。回答者が自分の送信済みデータを修正することは設定で可能ですが、管理者が全データの中から特定のレコードを検索して更新・削除するような操作はできません。データの更新が頻繁に必要な業務は、『ノーコードツール』の領域です。
複雑なワークフロー。 申請 → 承認 → 差し戻し → 再申請のような多段階の承認フローは実現できません。
リレーショナルなデータ構造。 顧客テーブルと案件テーブルをリレーションで結んで参照する、といった使い方はスプレッドシートでは限界があります。
デザインの自由度。 自社ブランドに完全に合わせたフォームを作りたい場合は、他の選択肢のほうが適しています。ただし社内業務のインプットUIとして使う分には、デザインの良し悪しは大した問題になりません。
大事なのは、このラインに達するまでの相当広い領域が、Googleの無料ツール群でカバーできるということです。
まとめ:「完璧なシステム」より「今日動くフォーム」
中小企業のDXにおいて、最大の敵は「何もしないこと」です。完璧なシステムを探しているうちに時間だけが過ぎていく。要件定義に3ヶ月、開発に半年、導入研修に1ヶ月。その間に現場は紙とExcelで回し続ける。
私がGUULYを作ろうと思った時、プログラミングを学ぶところから始めて、リリースまで1年半かかりました。でも今は違います。「現場の課題を解決したい」という思いを持った方が、その思いを形にするまでの距離が劇的に縮まっている。
Googleフォームは完璧ではありません。でも「今日から動く」のです。
業務の中で「この情報、いつも手書きで集めてるな」「このExcel、みんなバラバラに入力してぐちゃぐちゃだな」と思うことがあったら、まずGoogleフォームで入力画面を作ってみてください。5分で作って、1週間使ってみて、「便利だな」と思えたら大成功。「もっとこうしたい」と思えたら、それがDXの第一歩です。
「もっとこうしたい」の中身が、マスタ連携や自動通知なら生成AI+GASで対応できる。データの更新・削除や複雑なワークフローが必要になったら、そこで初めて『ノーコードツール』の出番です。
Googleフォームは「アンケートツール」ではなく、中小企業にとって最も身近なノーコードツール。そう捉え直すだけで、DXへの向き合い方が変わるはずです。
最後までお読みいただきありがとうございました。 中小企業のIT活用・生成AI活用について、引き続き発信していきます。
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