2026年9月28日、ITコーディネータ協会が「中小企業向けAX推進ガイドライン」を公開しました。中小企業がAIを使って会社を変えていくときの考え方と手順を、一つの文書にまとめたものです。
公開から間もないため、私たちもこれから支援の場で使い始めるところです。この記事は、使ってみた報告ではありません。中小企業診断士・ITコーディネータとして読み、「小さな会社なら、どこから読み、何から始めるか」を整理したものです。
このガイドラインは、何の文書か
作ったのは、ITコーディネータ協会の生成AI研究会です。2025年9月に公開された「中小企業向けAI活用ガイド」をもとに、AXを進めるという視点で全体を組み直したもの、と説明されています。
主な読み手はITコーディネータですが、中小企業の経営者や担当者、商工会議所・金融機関などで支援にあたる人にも役立つように書かれています。経営者、社内の担当者、外部の支援者が、同じ言葉で話せるようにすることが狙いの一つです。
Web上の文書として公開されており、AIの技術や法制度の変化に合わせて更新を続けるとされています。本文を読むには、協会のサイトでの手続きが必要です(2026年10月11日に確認。出典:ITコーディネータ協会 生成AI研究会のページ)。
「AXとは何か」「DXと何が違うのか」は、中小企業のAX支援のページにまとめています。
全6章に、何が書いてあるか
分量のある文書です。先に全体の地図を持っておくと、読む所を選びやすくなります。
- 第1章「中小企業向けAX推進ガイドラインとは」:目的と読み手、AIの種類と特徴、この文書の読み方
- 第2章「AXに向けたAI活用シナリオと可能性」:自社の業務のどこでAIが使えるか。場面ごとの例
- 第3章「企業におけるAXの進め方」:役割と責任、自社の現在地の測り方、AIの取り入れ方の3つの型、方針の立て方
- 第4章「AI活用のリスクとその対策」:情報の扱い、法務・契約、社内ルールと教育
- 第5章「AXに向けたAI活用の具体的な手順」:3つの型それぞれの、計画から運用・改善までの進め方
- 第6章「ITコーディネータが推進する中小企業のAX」:支援する側の役割と、求められる力
経営者が最初から順に読み通す必要はありません。私たちは、第3章の3つの節から読むことをお勧めします。
小さな会社が、最初に読む3つの節
自社の現在地を知る(3.2 AI活用成熟度)
会社のAI活用が今どの段階にあるかを、レベル0から5の6段階で見る考え方です。
レベル1は、一部の社員が個人でAIを試していて、会社としての方針が無い状態。レベル2は、部署の中で計画して試し始めた状態です。小さな会社の多くは、このあたりにいるのではないでしょうか。
大事なのは、この評価が順位を付けるためのものではない、と書かれていることです。次に何を学び、何を整えるかを決めるために使います。すべての会社が同じ順序、同じ速さで進むものでもない、とも書かれています。
まずは「うちは今、どの段階か」を、経営者と社員とで話してみる。認識のずれが見つかるかもしれません。たとえば、社長は「まだ誰も使っていない」と思っていても、実際には数人が使っている、ということもありえます。
AIの取り入れ方を選ぶ(3.3 3つのアプローチ)
AIを業務に取り入れる方法を、3つに分けています。
- ツール活用型:既製のAIサービスを、人がそのまま使う
- カスタマイズ・内製型:既製のAIサービスやノーコードの道具を使い、現場が自社の業務に合わせた仕組みを作って使う
- システム開発・業務統合型:AIを組み込んだシステムを開発する、既存の業務システムとつなぐ
3つは、技術の高さや投資額だけで決まる分け方ではありません。会社の優劣を表すものでもありません。どの業務で、誰が使い、どんな情報を扱い、AIにどこまで任せるか。そこから選ぶものだとされています。必ず順番に進むものでもなく、併用もします。
多くの会社にとって取りやすい進め方として、まずツール活用型でAIの特性をつかみ、次にカスタマイズ・内製型を試す、という流れが挙げられています。私たちがこれまで行ってきた支援は、このうちカスタマイズ・内製型にあたります。
あわせて読んでおきたいのは、カスタマイズ・内製型の注意点です。お客様に向けて公開する、個人情報や機密情報を扱う、AIが外部へ送信や登録を行う、複数の人が続けて使う、作った本人以外が手入れをする、といった場合には、専門の担当者や専門家の確認を加えるよう書かれています。現場で手軽に作れるからこそ、どこから先は確認が要るのかを知っておくことが大切です。
誰が決めるのかを確かめる(3.1 役割と責任)
AXを進めるときの役割を、5つに整理しています。方向を決める経営者、経営と現場をつなぐ推進役、仕組みを整えて導入する役、日々の運用を支える役、そして足りない知識や経験を補って支える役です。
「うちにそんな人数はいない」と感じるかもしれません。ガイドラインも、小さな会社では一人が複数の役割を兼ねることがある、と認めています。そのうえで、兼ねる場合でも、経営としての判断なのか、業務上の確認なのか、どの役割として決めたのかをはっきりさせるよう求めています。
もう一つ、押さえておきたいことがあります。AIは、仕事の結果に責任を負う主体ではない、という点です。何をAIに任せ、どこまでのリスクを受け入れるかを決めるのは、経営者の役割だとされています。技術の細かい判断まで経営者が抱える必要はない、とも書かれています。ただ、「何のために使うのか」と「どこまで任せるのか」は、経営者が決めることです。
読んだあと、最初にやること
3つの節を読んだら、次の3つを決めてみてください。
- 自社は今、6段階のどこにいるか
- 最初に取り組む業務を1つ選ぶ。その業務は、3つの型のどれで始めるか
- その取り組みで、誰が決め、誰が作り、誰が日々使うか
推進室や専任の担当者を置くところから始める必要はありません。1つの業務を選び、1つ試してみる。ガイドラインは、その一歩を踏み出すときに、何を決めておけばよいかを確かめるための文書として使えます。
社内のルールづくりは、第4章に詳しく書かれています。私たちのコラム「中小企業の生成AI社内ルールの作り方」でも、最初に決める5つのことをまとめています。
まとめ
「中小企業向けAX推進ガイドライン」は、全部を読み通さなくても使えます。経営者はまず、第3章の3つの節から。自社の現在地、AIの取り入れ方、誰が決めるのか。この3つが見えれば、最初の一歩が決めやすくなります。
私たちも、これからの支援でこのガイドラインを使っていきます。使ってみて分かったことは、あらためてお伝えします。
AXの考え方と進め方の全体は、こちらにまとめています。
