社内に、AIに詳しい人が一人育った。
その人に頼めば、資料の下書きも文面の整理もすぐに出てくる。
それなのに、ほかの社員の仕事はあまり変わっていない。
小さな会社でAIを使い始めると、こうした状態で足踏みすることがあります。

AIを会社全体で使えるようにするには、どんな力を持つ人を増やし、社員研修をどう組めばよいのか。
ここでは、その考え方を整理します。
AX(AIトランスフォーメーション)の全体の流れは「中小企業のAX支援」に譲り、ここではそのうち「全社へ広げる」の段に絞って、私たちの考え方をご紹介しています。

「AIに詳しい担当が一人」で止まるとき

AIのことを一人に任せると、最初は順調に見えます。
ただ、その状態が続くと、次のようなことが起きやすくなります。

  • 頼みごとが集まる:「AIでやっておいて」という依頼が増え、担当の方の本来の仕事が押されていく
  • ほかの人の仕事が変わらない:頼んで受け取るだけなので、自分の業務のどこにAIが効くのかを考える機会がない
  • その人が抜けると止まる:作った道具も、頼み方のコツも、一人の頭の中に残る

こうなると、「もう一人、AIに詳しい人を採りたい」と考えたくなります。
けれども、小さな会社にとって採用は簡単ではありませんし、採れたとしても、頼みごとの集まる先が二人に増えるだけかもしれません。

AX人材は、外から連れてくる専門家だけを指す言葉ではないと、私たちは考えています。
いまの社員が、いまの仕事を続けながら、段階を踏んで身につけていく力です。

AX人材とは、何ができる人か

私たちは、AX人材に求められる力を、次の3段に分けて考えています。

  • 使う:自分の業務でAIに頼み、出てきた結果が正しいかを自分で確かめられる
  • 作る:繰り返している作業を、プロンプトや社内専用のAI、簡単な仕組みにして、自分や隣の人が使える形にできる
  • 広げる:作った道具を社内で見せ、隣の人の困りごとを聞いて、一緒に試せる

社員が今どの段にいるかは、次の問いで見当がつきます。

  • 先週、自分の業務でAIに頼んだことがあるか(使う)。
  • 繰り返し使っている自作のプロンプトや仕組みがあるか(作る)。
  • 誰かの業務のAI活用を手伝ったことがあるか(広げる)。

試験で測るより、こうした日々の行動で見る方が実態に近いはずです。

全員が3段すべてに進む必要はありません。
小さな会社なら、多くの社員は「使う」までで十分で、「作る」人が数人、「広げる」人が1〜2人いれば、会社は動き始めるはずです。
「作る」の先にある、作った道具を直し続ける話は「自社仕様のAIツールを、社内で直し続けられるようにする」に書きました。

3段に共通して効くのは、AIの知識よりも、自社の業務を知っていることです。
AIに頼むには、何を材料に、どの順で、どんな形の結果がほしいのかを言葉にする必要があります。
これは、その仕事を実際に担ってきた人の方が得意なはずです。
だから、育てる相手を「ITに強い人」に絞らないことをおすすめします。

研修を「受講者が1つ作って持ち帰る」形で組む理由

社員研修というと、講師の話を聞き、操作を真似て終わる形を思い浮かべるかもしれません。
私たちが考える組み方は、受講者の全員が、自分の業務の道具(プロンプトや社内専用のAI、簡単な仕組み)を1つ作って持ち帰る形です。
社内に先に作った道具があれば、それを見本に見せてから、各自の分に取りかかってもらいます。
理由は3つあります。

1つ目は、次の日に使う物が手元に残ることです。
聞いた話は日常に戻ると薄れますが、自分の仕事のために作った道具は、翌日そのまま試せます。

2つ目は、自分の業務を言葉にする練習になることです。
道具を作るには、ふだん無意識にやっている手順を書き出すことになります。
これは業務の棚卸しそのもので、AIを使わない部分の改善点も見えてくるはずです。

3つ目は、作った道具が社内の見本になることです。
隣の席の人が作った道具を見ると、「それならうちの仕事でも」と考えやすくなります。
「使う」人が「作る」へ、「作る」人が「広げる」へ進むきっかけは、こうした所に生まれると考えています。

ここで作るのは、まず作る経験をするためです。
研修で1つ作っただけで「作る」段の人になるわけではありません。
「作る」段の人とは、研修の後も自分から作り続ける人のことで、研修はその人を見つける機会にもなります。

この形は、いきなり全社員に受けてもらうという意味ではありません。
誰から受けてもらうかは「中小企業の生成AI研修の組み立て方」に書いたとおり、関心のある人や困りごとのある部署から始めて構いません。
また、全員に同じ物を作ってもらうわけでもありません。
題材は一人ひとり違って当然です。

この形で組むなら、事前に次のことを決めておくとよいと考えます。

  • 題材は受講者が持ち込む:繰り返している作業のうち、できれば売上に近いものを、研修の前に1つ選んできてもらう
  • 大きさを絞る:研修の時間内で動くところまで行ける大きさにする。たとえば、お客様への案内文の下書き、問い合わせメールへの返信の下書き、打合せメモからの要点の整理など(いずれも架空の例です)
  • 入れてよい情報と使うAIを先に決める:業務の題材を使うので、必ず線引きが要る。決め方は「中小企業の生成AI社内ルールの作り方」が参考になります
  • 詰まった人を一人にしない:二人一組にする、詰まった場所を全員で共有するなど、手が止まったときの動きを先に決める

当日に完璧な道具ができなくても構いません。
どこで詰まったかが分かれば、それが次に直す場所になります。

研修の後に決めておく3つのこと

研修の直後は、受講者の手元に作った道具があります。
それを社内の力に変えられるかどうかは、その後の決めごとで変わると私たちは考えています。
研修後も使い続けるための条件は「中小企業の生成AI研修の組み立て方」にまとめたので、ここでは「広げる」ために決めておきたいことを挙げます。

  • 置き場所:作った道具を、社内の決まった場所に置く。個人のパソコンの中に残すと、隣の人が見つけられません
  • 見せる機会:月に1回、10分でもよいので、作った道具を見せ合う時間を、いまある会議の中に取る
  • 時間の裏づけ:「広げる」役の人が使う時間を、経営者が仕事として認める。善意の合間の作業にすると、忙しくなったときに止まりやすいはずです

3つ目は、経営者にしか決められないことです。
AIで空いた時間をどこに回すかは経営の判断で、その考え方は「AIで浮いた時間を、何に使うか」に書きました。
「広げる」人の時間も、その使い道の候補の一つです。

研修を社内で回せるようにする

受講者の中から「広げる」人が出てきたら、次に考えたいのは、毎回外部の講師に頼まなくても研修を続けられる形です。
新しく入った社員や、まだ受けていない部署へ、社内の人の手で広げていけるはずです。

このとき必要になるのは、教える人の熱意だけではありません。
誰が教えても同じ内容を伝えられる教材と、研修全体の設計です。

AIを題材にした教材には、もう一つ注意点があります。
画面や機能がよく変わるので、操作の手順を中心に作ると、すぐに古くなります。
自分の業務をどう言葉にするか、結果をどう確かめるかといった変わりにくい考え方を中心に置き、操作の説明は差し替えやすい別の資料に分けておくと、社内で更新を続けやすくなります。
あわせて、誰がいつ教材を見直すのかも決めておきます。

私たちの「研修・セミナー」では、研修の内製化支援として、テキストやスライド、動画の教材を作ってお渡しするほか、社内研修プログラムの設計もお受けしています。

まとめ──今週やること3つ

AX人材は、採るだけでなく、社内で段階を踏んで育てていくものだと、私たちは考えています。
社員研修は、そのための入口です。
手始めに、今週は次の3つから取りかかってみてください。

  • 社内でAIに詳しい人に集まっている頼みごとを、1週間だけ書き留める。繰り返し出てくるものが、研修の題材の候補です
  • 各部署で繰り返している作業を、1つずつ挙げてもらう
  • AIに入れてよい情報と、いけない情報の線引きが決まっているかを確かめる

社内で広げる研修のご相談

私たちは、貴社の業務を題材にした企業内研修から、社内で研修を回すための教材づくりまでをお受けしています。
内容と料金は「研修・セミナー」に、AXの進め方の全体は「中小企業のAX支援」に載せています。

「AIに詳しい人が一人いるが、そこから広がらない」というご相談も歓迎します。
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