AIを使った業務の道具を、外の会社に作ってもらった、あるいは、社員の誰かが自分で作った。
最初の数か月はよく使われていたのに、いつの間にか開かれなくなっている。小さな会社では、珍しくない話です。

道具が使われなくなるのは、出来が悪かったからとは限りません。
仕事のやり方は、季節や取引先の変化で少しずつ変わります。
そのたびに道具にも手を入れる必要がありますが、直せる人が社内にいなければ、道具の方が仕事から取り残されていきます。

この記事では、作った道具を社内で直し続けられるようにするために、私たちが支援の中で何を渡し、どこでつまずき、何をどの順で渡しているかをまとめます。
AX(AIトランスフォーメーション)をどう進めるかは「中小企業のAX支援」で全体を説明しています。
この記事が扱うのは、その中の「自走する」の段です。

道具が止まるのは、直す人がいないから

外に作ってもらった道具は、たとえば次のような流れで止まっていきます。

まず、小さな違和感が出ます。読み取りの結果が少しずれる、通知の文面が今のやり方に合わない、といったことです。
直すには作った会社へ連絡が要るので、「今度まとめて頼もう」と後回しになります。
その間に、担当の方は道具を使わずに手で済ませる方法を覚えます。こうして、道具は動いているのに使われない状態になります。

ここで足りないのは、腕の良い作り手ではありません。小さな違和感を、その日のうちに社内で直せる人と、そのための材料です。

「自走できる」は、段階で考える

「自走できる状態にします」と言うのは簡単ですが、何ができれば自走なのかを決めておかないと、引き渡しの終わりが分かりません。私たちは、次のような段階で考えています。

  • 使う:道具を毎日の業務で使い、結果を確かめて承認できる
  • 調整する:結果のずれに気づいたら、判定の基準や文面などの設定を自分で変えられる
  • 軽く直す:新しい取引先を足す、通知先を変えるといった小さな修正を、AIに相談しながら自分で行える

あわせて、混ぜないようにしていることが一つあります。「どこまで自動にするか」と「誰が直せるか」は別の話だ、ということです。
人の承認をなくして全部を自動で流すようにしても、それで社内の人が直せるようになるわけではありません。
自動にする範囲は業務の判断として決め、直せる範囲は引き渡しの段階として別に進めます。

私たちが渡しているもの

ある会社で、業務で届くメールをAIが読み取り、内容に応じて担当の方に知らせる仕組みを作りました(支援先が特定されないよう、仕組みの中身は伏せて書いています)。
この仕組みを担当の方に引き渡すときに渡したのは、次の3つです。

  • 画面のスクリーンショット付きの手順書:毎日どの画面を見て、どこを押すか。困ったときに何をするか
  • プロンプト集:AIに作業や相談を頼むときの文面
  • よくある質問集:つまずきやすい所と、その対処

渡す物と同じくらい大事にしたのが、作り方の側の工夫です。
判定の基準や通知の文面、AIへの指示といった「あとで変えたくなる値」は、プログラムの中に書かず、担当の方がふだん開ける設定用の表に置きました。
そのうえで、設定の項目ごとに「触ってよいもの」と「相談してほしいもの」を分けた一覧を、別の資料にしました。設定は、仕組みの中でもいちばん分かりにくくなりやすい所だからです。

もう一つは、毎朝、前日の処理の結果が1通にまとまって届くようにしたことです。正常なら何もしなくてよく、異常の印が出たときだけ、その本文をAIに貼って相談します。
毎朝この1通を見れば、前日の状態が分かるようにしました。

渡した後に、最初につまずいたこと

引き渡しの後、担当の方が意味の分からないエラーに出会いました。
手順書のとおり、エラーの本文をAIに渡して説明を求めたのですが、返ってきた説明も専門用語が多く、読み解けるものではありませんでした。
エラーをAIに渡せば解決する、とは限らなかったのです。

こうした場面では、立ち止まらずに、すぐ私たちへ連絡していただくようお願いしています。連絡を受けたときの対応は、次の2つを基本にしています。

  • 私たちが初期対応でトラブルを解決し、そのうえで「次に同じような場面があったとき、AIにどう質問すればよいか」を手順にしてお渡しする
  • トラブルの解決そのものを担当の方が進められるよう、「AIにはこのように指示してください」という指示文や、AIに渡す添付ファイルなどをお渡しする

どちらも、一度つまずいた所を、次からは社内でAIを使って越えられるようにするための対応です。
つまずくたびに、社内で扱える範囲が少しずつ広がっていきます。

難しい所は、段階を分けて渡す

全部を一度に渡す必要はありません。この仕組みでは、サーバー(仕組みが動いている土台)の契約もクライアント名義です。
ただし、サーバー側の難しい対応は一度には渡さず、段階を分けて引き渡しています。
その途中のいまは、そうした対応を私たちが受け持っていますが、近いうちにそれらの対応もクライアント自身が対応できるようにするのが、私たちの基本姿勢です。

サーバーは、仕組み全体が載っている土台です。一か所の設定の誤りが全体を止めることがあり、直すには専門の知識が要ります。
まず日々の設定の調整を自分でできるようになってもらい、そのあとで土台の対応へ、と順番に渡していけば、担当の方が一度に抱え込まずに済みます。

渡す順番を決めたら、困ったときの順番も一緒に決めておきます。この仕組みでは、
①おかしいと思ったら、まず担当の方が自分で処理を一時停止してよい(データは消えません)
②エラーの本文をAIに貼って相談する、
③AIの説明で解決できないときや、仕組みそのものを変える必要があるときは、立ち止まらずに私たちへ連絡する

という順番にしました。「迷ったら止める」を担当の方が一人でできるようにしておくと、自走の範囲を広げても怖くありません。

担当の方に合わせて、渡し方を変える

社内で誰がツールの担当になるかは、その会社が決めることです。
ご相談には応じますが、私たちに決める権限はありません。
私たちにできるのは、決まった担当の方がうまくできるように、その方の慣れ具合を見ながら、話し方と渡し方を変えることです。

この会社の担当の方は、生成AIの使い方にも慣れており、ツールの扱いも積極的に自分から習得されようとしていました。そのため、改まった研修を組むのではなく、実際に動かして見せて確かめる形にし、その分、分かりにくい設定の資料を厚くする方針にしました。

引き渡しにかけた打合せは、オンラインで3回ほどです。その間も、困ったことはSlackでいつでも送れるようにしました。

担当の方がITに詳しくない場合は、進め方がまったく変わります。私たちの「生成AI活用支援」で紹介している事例では、Googleアカウントの作成から一緒に始めました。
同じ「自走」でも、出発点は会社と人によって違います。

作って渡したら終わり、にしない

作った道具を、社内で直し続けられるようにする。
AXを進めるうえで、作った後に最初に踏む一歩です。
直せる人がいれば、道具は仕事の変化についていけます。
ついていける道具があって初めて、浮いた時間を何に回すかを考える余裕が生まれます(その使い道の決め方は「AIで浮いた時間を、何に使うか」に書きました)。
AIに相談するときの社内の決まりは「中小企業の生成AI社内ルールの作り方」が参考になります。

いま使っている道具があれば、今週、次の3つを確かめてみてください。

  • そのツールの「後で変えたくなる値」は、社内の人が開ける所にありますか。それとも作った会社に頼まないと変えられませんか
  • おかしいと思ったときに、社内の人が自分で止められますか。止め方はわかりやすく書いてありますか
  • 社内で直す所と、当面は外に任せる所は分かれていますか。外に任せている所を、いつ・どの順で社内へ移すかは決まっていますか

ツールづくりから、社内で直せるようになるまで

私たちは、貴社の業務に合わせた道具を作るところから、担当の方が自分で直せるようになるまでを一緒に進めます。
支援の内容と進め方は「生成AI活用支援」を、AX全体の流れは「中小企業のAX支援」をご覧ください。

「作ってもらったツールが使われなくなっている」「これから作るツールを、社内で直せるようにしたい」という段階からでも構いません。
お問い合わせからお気軽にご相談ください。