議事録のまとめ、日報の集計、商品説明文の下書き。生成AIやAIエージェントで、こうした作業が速くなったという話は、もう珍しくなくなりました。

ただ、作業が速くなることと、会社が変わることは別の話です。この記事では、AX(AIトランスフォーメーション)を効率化で終わらせないために、浮いた時間の使い道をどう決めるかを、私たち自身の実践も交えてまとめます。

「効率化できました」の後に、何も起きない会社

AIで作業時間が減ったはずなのに、数か月たつと元の忙しさに戻っている。小さな会社では、よくあることです。

空いた30分は、その日のうちに電話や伝票の確認で消えていきます。使い道を決めていない時間は、目の前の仕事に回るのが自然です。

私たちも、支援先で同じ経験をしています。ある小売店で、店頭の販促物づくりを速くする仕組みを作り、その後も使われていました。それでも数か月後に伺うと、浮いた分はほかの用事で埋まり、その時間で新しく何かができたわけではありませんでした(そのときのことは「なぜ私は、AXエバンジェリスト講座の受講を決めたのか」に書いています)。道具がうまく動くことと、会社が前に進むことは、同じではありません。

この記事で扱うこと

私たちは、AXを、道具の導入としてではなく、浮いた時間・人・コストの配り直しとして捉えています。考え方と進め方の全体は「中小企業のAX支援」にまとめました。この記事は、そのうち「回す先をどう決めるか」に絞って書きます。

まず、私たち自身でやってみた

生成AIやAIエージェントは、数か月で、できることが大きく変わる分野です。こうした分野では、人に勧める前に、まず自分たちで使ってみるべきだと考えています。使ってみないと、どこまで任せられて、どこで人の目が要るのかが分からないからです。

人から聞いた話や、半年前の記事で得た知識は、この分野ではすぐに古くなります。支援先に「この業務はAIに任せられます」「ここは人が確かめてください」と言うためには、自分たちの仕事で一度、任せて、確かめて、直すところまで経験しておく必要があります。自分たちで使っていない道具を、人に勧めることはできません。

私たちは、日々の業務の一部をAIエージェントに任せています。時間は、私たちの場合の目安です。

  • 支援の報告書の作成:30分 → 5分
  • 毎月の請求書の作成(締め作業全体):2時間 → 10分
  • ホームページやnoteの記事づくり(構成、下書き、画像の用意、掲載まで):3時間 → 20分

あわせて、支援先向けのツール開発の一部も、ほかの作業をしている間にAIエージェントが進めています。

AIが受け持つのは、下書き、定型の作業、決めた設計に沿った作り込みです。何を作り、何を伝えるかを決めること、出来上がりを確かめて直すこと、最終的な判断は、私たちが行います。なお、請求書の金額はAIではなく、請求のために作った専用の仕組みが計算します。AIが受け持つのは、発行や送付の手続きです。決まった作業をAIに任せた分、人が考えるべき仕事に時間を使えるようになりました。

浮いた時間を、何に回したか

浮いた時間は、まず次の3つに回しました。

  • 次回の訪問に向けて、その会社のために考える時間
  • お問い合わせへの、より早く丁寧な対応
  • 自社のホームページを、より多くの方に見ていただくための改善

これが回り始めてから、さらに次の時間も取れるようになりました。

  • 専門の領域と、その周辺の領域の学び
  • 新しいサービスを始めるための準備

1つ目について、少し補足します。今は、提案資料もAIで一瞬で作れると言われます。私たちも、資料の形を整える作業はAIに任せています。増やしたのは、資料を作る時間ではなく、考える時間です。

私たちが支援する事業者は、業種も、事業の内容も、組織も、規模も、一社ごとにまったく違います。前回の訪問で、先方と私たちのそれぞれが持ち帰った宿題があります。そのうえで、次の限られた時間で何を話し、何を決め、何を一緒に作るのか。これは、その会社のことを知っている人が考えるしかありません。

2つ目と3つ目も、お客様との接点を増やすための時間です。お問い合わせには、内容を確かめたうえで、できるだけ早くお返事するようにしています。自社のホームページでは、毎週1本のコラムを書き、表示の速さや読みやすさの改善を続けています。このコラムも、その時間から生まれています。

まず目の前の仕事に回し、それが回り始めてから、すぐには成果にならない学びや準備の時間が取れるようになった、というのが私たちの場合の流れです。

使い道を決める問い

今は、道具を作る前に、次の問いを伺うようにしています。

社長には、こう聞きます。

もし、従業員の毎日の仕事が3時間短縮できるようになったら、何をして欲しいですか?

従業員の方には、こう聞きます。

もし、毎日の仕事が3時間短縮できるようになったら、何をしたいですか?

具体的な数字を置くと、答えも具体的になりやすくなります。

この問いは、社長と従業員の方に別々に聞くのがおすすめです。同じ問いでも、立場によって答えが違うことがあります。たとえば、社長は売上につながる仕事を挙げ、従業員の方は日々の困りごとの解消を挙げる、ということも考えられます。どちらが正しいということではありません。

答えが食い違ったら、2つを並べて、両方に効くものがないかを探します。困りごとを解消すると、売上につながる仕事に手が回るようになる、という形でつながることもあります。つながらなければ、どちらを先にするかを社長が決めます。

答えがすぐに出てこないこともあります。それは悪いことではなく、道具を作る前に決めるべきことが残っている、という合図です。

使い道を1枚で決める

使い道は、道具を作る前に決めておくのが理想です。紙1枚に、次の4つを書き出します。

  • 対象の業務:AIで速くする業務を1つ
  • 浮く時間:1日・1週あたりの目安
  • 回す先:誰に、何をするか
  • 見る数字:回す先で実際に動けたかを確かめる数字

「回す先」は、できるだけ具体的に書きます。「営業を強化する」では、実際に何をするのかが決まりません。「誰に、何をするか」まで書いておくと、空いた時間がそのまま行動につながります。「見る数字」は、減った時間ではなく、回す先で実際に動いた量や、その結果を選びます。

架空の会社を想定した例を挙げます。

従業員12名の卸売業。受発注の入力と確認をAIで半分自動にする。浮く時間は、事務担当の方で1日1〜2時間の見込み。回す先は、半年以上注文のないお客様への連絡。見る数字は、連絡した件数と、そこからの再注文の件数。

この1枚は、社長と担当の方が一緒に作ります。道具ができてしばらくたったら、1枚と見比べて、回す先に本当に時間が使われているかを確かめます。ずれていれば、回す先か見る数字を直します。

効率化で止まらない会社の3つのしるし

1枚を作ったあと、取り組みが次へ進んでいるかどうかは、次の3つを目安に見ています。

  • 空いた時間の使い道を、社長が自分の言葉で言えるか
  • 現場の担当者が「次はこれも楽にしたい」と、自分から言い出すか
  • 効果を「何時間減ったか」ではなく、「空いた時間で何ができたか」で話しているか

1つ目は、使い道が社長の頭の中にあるかどうかです。「時間ができたら、いろいろやりたい」という答えでは、空いた時間はまた目の前の仕事に戻っていきます。「事務の◯◯さんの時間で、半年注文のないお客様に連絡してもらう」のように言えれば、その時間は守られやすくなります。

2つ目は、取り組みが社長一人のものになっていないかどうかです。一つ楽になった担当者が、次の業務を挙げてくるようになると、取り組みは自然に広がっていきます。逆に、担当者から次の話が出てこないときは、今の道具で本当に楽になっているかを、担当者に確かめてみる合図です。

3つ目は特に大事です。減った時間だけを見ていると、取り組みは「楽になった」で終わります。上の卸売業の例なら、休眠客に連絡できた件数、そこからの再注文の件数、出せた見積もりの件数。空いた時間でできたことを見ていると、次に何をするかの話になります。

自分たちの仕事から始める

支援先に限らず、AXはまず、経営者や社内の誰か一人が、自分の仕事で試してみるところから始められます。私たちが自分たちの仕事で試したのと同じ順番です。

選ぶのは、毎週か毎月、決まって繰り返している作業がよいでしょう。報告書、請求書、議事録、日報の集計、商品説明文など、形がある程度決まっている作業です。今どのくらい時間がかかっているかを、ざっくりで構わないので書き留めておきます。AIに任せてみたら、もう一度測ります。

そして、ここでも先に決めておくのは、浮いた時間を何に使うかです。自分で試して、どこまで任せられ、どこで自分の目が要るかが分かれば、社員の方に広げるときにも、具体的な言葉で伝えられるようになります。

まとめ──今週やること3つ

  • AIで速くなった作業、速くなりそうな作業を1つ書き出す
  • 社長と担当の方それぞれに「毎日3時間空いたら、何をしたいか」を聞いてみる
  • 回す先と、そこで実際に動けたかを確かめる数字を1つ決める

私たちの支援では、ツールづくりと同じ重さで、この「回す先」を経営者と一緒に考えます。社員の方への広げ方は、コラム「中小企業の生成AI研修の組み立て方」にまとめています。

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