「それ、このツールでできますよ。」

支援先との打合せで、気づくとこの言葉から話し始めています。

中小企業診断士・ITコーディネータの大澤真介です。
合同会社オンザウェイの代表をしています。
「”やりたい”を”できている”に変える」をテーマに、中小企業の実装支援に取り組んでいます。

9月から、東京大学 松尾・岩澤研究室の「AXエバンジェリスト講座」を受講しています。全7回、木曜の夜の講座です。

今回は、なぜ受講を決めたのかを書きます。講義の中身には触れません。受講者以外に内容を出さない決まりですし、書きたいのは講座の紹介ではなく、私自身の話だからです。

先に書いておくと、新しい道具の使い方を覚えたくて申し込んだわけではありません。自分の考え方の癖を、外から見直したかったからです。

AX、という言葉について

AXは、AIトランスフォーメーションの略です。DXの次の言葉として、この1年でよく見かけるようになりました。

正直に言うと、私は新しい言葉が出てくるたびに少し身構えます。言葉だけが先に走って、現場が置いていかれる場面を何度も見てきたからです。

ただ、この言葉が指している中身には、うなずけるところがあります。

私が所属するITコーディネータ協会が、「中小企業向けAX推進ガイドライン」という文書を出しています。そこでは、経営者が示すべきものはAIを入れることそのものではなく、それで実現したい価値だ、という考え方が軸に置かれています。

道具を入れる話ではなく、会社をどう変えるかの話。そう読むと、これはc中小企業診断士として、ITコーディネータとして私がずっと言ってきたことと同じです。

同じなのに、私はそれをよく忘れます。今回書きたいのは、そこです。

支援先が求めているのは「効率化」ではない

生成AIの相談を受けると、話はたいてい「この作業を速くしたい」から始まります。

見積書を作る時間を減らしたい。問い合わせの返信を楽にしたい。手書きの記録をなくしたい。

どれももっともな話で、今の道具なら、かなりの部分は形にできます。

ただ、正直に言うと、支援先が本当に求めているのは「AIというツールによる効率化」ではありません。

その先です。浮いた時間、手が空いた人、減ったコストで、何ができるのか。何をするのか。

そこが決まっていなければ、作業が速くなっても会社は変わりません。空いた時間は、別の雑務で埋まるだけです。

作ったのに、何も変わらなかった

ある支援先で、小売店の店頭販促物を作る作業にかかる時間を生成AIを活用して減らす仕組みを作りました。喜んでもらえました。

ところが数か月後に伺うと、空いたはずの時間は、別の雑務で埋まっていました。作る前に「その時間で何をするか」を一緒に決めていなかったからです。

仕組みは動いていました。使ってもらえてもいました。それでも、会社としては何も変わっていなかった。

作った側としては、うまくいったと思っていた案件です。だから余計にこたえました。

小さな会社では、時間が空くと、その分だけ別の仕事が流れ込んできます。人が足りていないので、当たり前のことです。空いた時間を「次のこと」に使うには、先に使い道を決めて、守る必要があります。

それを決めるのは、道具ではなく経営の仕事です。そして、そこを一緒に考えるのが、本来の私の役割のはずでした。

分かっているのに、抜け落ちる

これは、診断士なら誰でも知っている話です。経営の課題から考える。道具は最後に選ぶ。私もその意識は常に持っているつもりです。

それなのに、抜け落ちます。

打合せで、話がどうしてもツールの機能に寄っていく。「これでできます」という打ち手から入ってしまう。

理由ははっきりしています。技術の進歩が速すぎるからです。先月できなかったことが、今月はできる。それを知っていると、目の前の困りごとに「できます」と言いたくなります。相手も喜んでくれます。

その場は盛り上がります。けれど、「それができたら、次に何をしますか」という問いは、置き去りになっています。

以前、生成AIのアップデートが速すぎて、正直少し怖いという記事を書きました。あのときは、追いかける側の疲れの話として書きました。

今は、もう一つの怖さがあると思っています。速さに引っ張られて、支援する側の順番が狂うことです。

道具で補ってみた。それでも足りなかった

この癖については、以前にも書きました。自分で直しきれないので、飛ばした問いを拾ってくれる仕組みまで作りました(「打ち手が速い」は武器であり弱点でもある)。

打ち手に飛びつきそうになったとき、「その前に確かめることはないか」と問い返してくれる相手を、自分の横に置く。そういう考え方です。

道具で補うことはできます。でも、道具を作ったのも私です。私の考え方の枠の中でしか、問いを拾えません。

私が思いつかない問いは、私が作った道具も思いつきません。

ここが、自分ひとりで工夫することの限界でした。

それでも、作ることはやめない

誤解のないように書いておくと、作ること自体をやめるつもりはありません。

私は中小企業で20年働いてきました。その間、口だけの外部支援者にたくさん出会いました。

立派な提案をして、帰っていく。言うことは正しい。でも、手は動かさない。現場に残るのは、分厚い資料と、日常業務の負荷を無視した宿題でした。忙しい現場に、正しいだけの提案は届きません。

診断士を志したのは、あの頃の自分が欲しかった支援者になりたかったからです。提案だけでなく、隣で一緒に手を動かしてくれる人です。

教えるだけでは、前に進みません。「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ」という言葉がありますが、目の前の仕事で手一杯の小さな会社ほど、まず「やってみせ」が要ります。動くものを見て初めて、自分の会社の話として考えられるようになるからです。

だから、先に作って見せる。この順番は、これからも変えません。

変えたいのは、作る前と、作った後です。作る前に「できたら何をするか」を聞く。作った後に「空いた時間は、決めたことに使えているか」を一緒に見る。その2つが抜けていました。

自分の固定観念に捉われるのが、いちばんのリスク

「手を動かせる」という強みは、そのまま弱みにもなります。作れるから、作る話から入ってしまう。

しかも今は、変化がとにかく速い時代です。自分のやり方がうまくいっているときほど、それが固定観念になっていることに気づきにくい。

私は以前、中小企業は新しいAIを全部追いかけなくていい、と書きました。今もそう思っています。

ただ、支援する側の私が、自分の見方だけで走るのは話が別です。私の思い込みは、そのまま支援先の遠回りになります。

自分の考え方が古くなっていないか。偏っていないか。それを自分で確かめるのは、ほとんど無理です。

だから、他の専門家の考え方を取り込みに行く

受講を決めた理由は、ここにあります。

AIをどう会社に根づかせるか。私とは違う立場で、違う現場を見てきた専門家が、それをどう考えているのか。まとまった形で聞ける機会は、多くありません。

自分の考え方を一度外から見直す。足りない問いを持ち帰る。私にとっては、そのための7回です。

学んだことをそのままここに書くことはできません。その代わり、持ち帰った問いを自分の支援の現場でどう使ったか、何が変わって何が変わらなかったかは、これから書いていきます。

AIで何かが速くなったら、先に決めておくこと

最後に、読んでくださっている経営者の方へ、私自身の反省から一つだけ。

AIで何かの作業を速くしようとするとき、作り始める前に、紙に1行だけ書いておいてください。

「空いた時間で、〇〇をする。」

お客様に電話をする。新しい商品を考える。社員と話す時間を取る。早く帰る。何でも構いません。

書いていないと、空いた時間は必ず別の仕事で埋まります。これは、私が支援先で実際に見たことです。

まとめ

  • 支援先が求めているのは、AIによる効率化ではなく、その先で何をするか
  • 分かっているつもりでも、技術の進歩が速いと「これでできます」から入ってしまう
  • 道具で補うことはできるが、自分の考え方の枠の外にある問いは拾えない
  • 作って見せることはやめない。変えるのは、作る前と作った後
  • 自分の固定観念だけで走るのは、支援先にとってのリスク。だから、他の専門家の考え方を取り込む機会として受講を決めた

「これでできます」と言いたくなったら、その前に一つ、「それができたら、何をしますか」と聞く。まずはそれだけを、次の打合せから試します。うまくできなかった回も含めて、また書きます。


「やりたいことはある。でも、形にならない。」
そこを一緒に越えるのが、私の仕事です。作るところまで、そして、作った先で何をするかまで、一緒に考えます。

→ 合同会社オンザウェイ「実装支援」
→ 中小企業のAX支援|合同会社オンザウェイ


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